一話 <おい!そこに座れ集人!!

今日も、いつものように外の用事を済ませて、事務所に戻る。おっとその前に、
事務所に定時連絡を入れないと・・・(定時連絡を入れないと、当然のように怒られる。)

「プルルルルル・プルルルルル・プルッ」
「もしもし、緒川ですけれども・・・」
「もしもし集人、急いで、来て!」
「はい、わかり」「ガチャッ」「ました・・・」
何を急いでいるんだろうか、とにかく、急いでいこう。

「お疲れさまです。」
「お疲れ、おい!そこに座れ集人!!」
何事だ!?社長がすごく厳しい顔をして、座っている。
「お前は何をしたか分かっているんだろうな!」
「えっ・・・」(時間が止まる。いろんな事が頭に浮かぶが、どれだろう・・・)
「分かりません。」
「解らない?何か言う事があるんじゃないのか?」
「いいえ、たぶん無いと・・・思いますけれど・・・」
「そうか・・・なら言ってやる。レギュラーだってさ。」
「はあ???」
「この前フジテレビの<トロトロで行こう>に行ってきただろう。
連絡があって、レギュラーに決定だってさ。」
「え?レギュラーですか?」
「ああ」
「本当ですか?」
「本当だよ」
「やったー。本当ですね?」
「だから本当だって。」
「やったー、やりー。レギュラーですね。」
「良かったな集人!」
「よかったー怒られなくて。」
「だからそうじゃないだろう。」
「いやでもー」
「お前はそんなに後ろめたいのか?」
「いえ、あ、その、いや、そういう訳ではないですけれども・・・」
「いつも怒られるイメージが・・・」
事務所では、よく怒られている集人だった。

PS
こんな、ちょっときつめのジョークは日常茶飯事。ほぼ、うちの社長の趣味である。
へこたれるな集人!(とは言え、いつも後ろめたいのか、おまえは!!)

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第二話 <美少年シュート 第一部>

いつものように事務所に向かう。遅刻をしないようにいそがないと・・・
「おはようございます。」
「おはよう!」
「・・・」

今日は、特に怒られる事はなさそうだ。(・・・いつもの癖である。)
そんな事を思っていると・・・

ぷるるるるっ・ぷるるるるっ・ぷるるっ
「はいウィザードインです。はい、はい、若いマジシャンですか?
はいおりますが・・・はいわかりました。ではこちらからご連絡します。」
それからしばらくして、社長によばれた。
「おい集人、フジテレビの<トロトロで行こう>っていう番組があって、
その中で、美少年コンテストっていうコーナーがあるらしいんだけど、
そのコーナーに出演依頼がきたぞ。」
「えっ・・美少年ですか?」
「そうだ!」

この時、嫌な思い出が蘇る。

今から数年前にTBSの番組の中でやはり美少年コンテストがあって
その時、オーディションに行き、見事に落とされたのである。
まあ、当然と言えば当然の事だが・・・気分の良い物ではない。

「美少年ですよね?」
「だからそうだよ。」
「はあ、で、何をすればいいんですか?」(気持ち的に乗り気ではない。)
「まあ、一芸するらしいんだけど詳しくは今度打ち合わせがあるから
その時になってみないと、わからないから。」
「わからないって、そんな・・・」

ーそれから数日後ー

今日はマネージャーのT氏と一緒に打ち合わせ(ネタ見せ)だ。
とりあえず、見せられる物は全部用意してきた。
相手の事務所につく。
「おはようございます。マジシャンの緒川です。よろしくお願いします。」
「おはようございます。どうぞこちらへ」
ADの人に奥の会議室へ通され、ここから、プロフィールや、
モテた時のエピソードなどありがちな質問をされた。
(ここまでは、TBSの、美少年と、変わらない。)
そして、最後に演技をする事になった。ビデオに撮るらしい。
「じゃあみせてください。」
「はい、では始めます。」
まさに、今までのうっぷんを晴らすかのように、
緒川集人のスペシャルマジックショーが、始まった。
ADの人以外にも、デレクターの人や、事務の人など、集まりはじめた。
当然、人が増えれば気合いもはいる。そして、演技終了。
とりあえず、見てる人みんなが喜んでくれたので、満足だし、
自分で言うのも何だけれど、良い演技だった。
(もし見たい場合は、ライブや大会を、見に来てください。)
「それでは、後日ご連絡を差し上げます。お疲れさまでした。」
「失礼します。お疲れさまでした。」
こうして、打ち合わせは終わった。

やるだけの事はしたが、もし箸にも棒にも掛からなければ、
連絡すらこない事だってある。
そんな思いとは裏腹に、事務所に戻ってすぐに、返事の連絡がきたのだが・・・。

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第三話  <美少年シュート第二部>

事務所に戻ったらどういう報告をしよう。変な報告の仕方をすると、
また叱られてしまう。(怒られるのを、気にするのは癖である。)

事務所に打ち合わせから帰って、すぐに番組のADの人から連絡が入った。
「担当のデレクターにビデオを見せましたところ、今夜もう一度
打ち合わせをしたいと言っておりまして、お時間はありますでしょうか?」
思った以上に良い反応なので、自分でも驚いてしまった。

とりあえず、その日の夜にバーレストランで、会う事になった。
もう一度マジックの準備をしなければ・・・。

-その夜-

「それじゃー社長、これから打ち合わせにいってきます。」
「いってらしゃい。ただ、これから会う、デレクターは、前に番組で会ったとき、
マジックの事で、(マジックなんて、ちゃらららららんー(オリーブの首飾り)でいいんですよ。)
なんて言ってたから、ちゃんと扱ってくれるか分からないぞ。」

・・・ちなみにその番組の時は、社長は怒って帰ってきてしまったらしい。
(今では番組内で、最もマジックと僕たちを理解してくれているデレクターです。)

「はい。ちゃんとマジック見せてアピールしてきますよ!。」
打ち合わせの場所につく。そして、今日二度目のマジックショーを見せた。
「すごいね!おもしろいじゃない。それで、きみは何才?」
「二十二才です。」
「いいね。いけるよ。じゃあさ、やる内容を先に決めよう。」
話が、どんどん決まっていく。まさかこんなにすんなり決まるとは、
思ってもいなかった。しかし、心に引っかかる物があった・・・。
「これって、やっぱり美少年コーナーですよね。」
「勿論そうだけどなにか問題でも?」
「いえ実は、・・・」
例の番組の事について説明した。
「と、言う事で、ひどい顔だとはいいませんけど、決して美少年とは
言えないじゃないですか・・・。」
「確かにそうだけど」
(って、そんなにあっさり認めなくてもいいじゃん。ちょっと不満な顔をする。)
「いや、でも、そんな事もないよ・・・。」
(フォローがおそいよ。それに「も」ってなに?「・・・」ってなに?)
「とにかくマジックがすごいから、何とかなるよ。」
「ええ、まあ・・・。それで、最初に紹介されるとき、似てる芸能人の
写真を出すそうですけど、」
「うん。かっこいいタレントを選ぶんだけど、ちょっとオーバーなくらいが
良いんだよね。」
「それなんですけど、よく、<似てる芸能人はこの人。(客席から)おおー>
それで、<ではご本人に登場してもらいましょう。
どうぞ!(客席から)ええー?ブーブー>っていうのが、
あるじゃないですか。あれって気持ちが負けちゃいそうで・・・
しかもその後に演技をするとなると・・・」
「じゃあさ、あんまり、格好いい系じゃなくて、かわいい系にすれば?
例えば、林家〇平さんなんてどう?」
「え?よく知らないんですけれど・・・」
「いや、似てるから大丈夫だよ。」
(いや、似てる似てないじゃなくて、ブーイングが・・・)
「じゃ、決まりね。」
(えっ・・・決まってしまった。林家〇平さんの顔も浮かばないまま・・・)
「じゃあそういう事で、当日はよろしく!」
「は、はい。よろしくお願いします。」
何か心に引っかかるのを覚えつつ、事務所に帰るシュートだった。

つづく (<〇平さん>は、こぶ平さんではありません!)

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第四話 <美少年シュート第三部>

大変な事を忘れていた!!

マジックのネタでもなければ、スタジオに入る時間でもない。
それは、美少年のコーナーに出るときは、母親と一緒でなければならないのだ。
と言っても、別に恥ずかしい訳ではない。自分と、母親はすごいそっくりで、
笑えてしまうだけである。
(ちなみに事務所では、「シュートが、女装したみたい」とか、
「お母さんがシュートに、ばけてるんじゃない?」などと、みんなで笑ったのを覚えている。)

しかし、こればっかりはしょうがない。さすがに覚悟を決めた。
(そこまで言うと母上に失礼だぞ!)

−スタジオ入り−

「おはようございます・・・。」
控え室に入る。当然の事だが新人一発芸タレントは、
大部屋と決まっている。が、子供連れのお母さんや、
その他の素人さんと一緒だから、さすがに部屋が狭く感じる。
「あっ、おはようございます。僕も美少年のコーナーに出るんですよ。」
「あそうなんですか。と言うことは、何か一芸されるんですよね?」
「ええ、そうなんです。ぼくは、生け花を少々・・・」
「へーそうなんですか。(僕は、マジックを十二年やってるけど、
この人はどうなんだろう)どの位なさっているんですか?」
「数日です。」
「は?」
「数日ですよ。」
「はあ。そうなんですか。・・・」
話が終わってしまった。いや、続けなければ・・・
「僕はマジックで出るんですよ。」
「え、マジックですか?」
「ええそうです。」
「じゃあもし良かったら、少し見せてくださいよ。」
「いいですよ。」(ちょうど番組の良い練習になるな。)
ひと通りマジックを見せた。そうすると、ADの人や、出演者が
周りに集まりはじめた。
当然、人が増えれば気合いも入る。そして演技終了。

とりあえず、見てる人みんなが喜んでくれたので満足だし、
自分で言うのも何だけれど、良い演技だった。はずなのに・・・
ただ一つ誤算だったのは、その後子供に囲まれてしまった事だった。

ーそして本番ー

ついに本番が始まった。僕の出番は三番目だ。
呼ばれるまでネタの確認をしていたら、母親が
「本番は、演技した方がいいかしら?」
「えっ・・・任せるから・・・適当に素でいけば?」
「うんがんばる!」
「・・・何を張り切ってるんだか」
「でも中山秀ちゃんは別にそんなに好きじゃないんだけどなあ」
「ああそう」(選ぶな選ぶな!)
そんな事をしてるうちに、母親が呼び出される。
よし次だな!
<それではプロフィールをどうぞ!おお似てるタレントは林家〇平!>
<ブーブー、〇平がブー!>by飯島愛さん
(ガックリ・・・)
<それでは息子さんを呼んでください。>
<シュートー!>・・・シュート登場
(家でシュートなんて呼んだ事もない癖に!)
<緒川集人二十二才です。>
<おっと、確かに、〇平さんににてますね>
(そればっかりだよ!)
<まあ、それにしてもお母さん、十七才の時に
アメリカまで一人で行かせるのは心配じゃなかったですか?>
(おっと、母さん余計なこと言うなよ!)
<いえ、兄弟が多いものですから、ちょうど食費が・・・>
(あちゃー、やっちゃったよ・・・)
<ああそうですかー!>(客席、タレントおおうけ!)
(あら、受けてるよ・・・)
<それでは、マジックの方をよろしくお願いします>
(以下マジックショー)

マジック自体は何事もなく、いやタレントさんたちにバカ受けで終わった。
結果的にはこれでレギュラーが決まった訳だが、
とにかく因縁の美少年コンテストは幕を閉じたのである。

帰りぎわの、母の嬉しそうな顔を見て、喜んでもらえたんなら
またいつか一緒にTVに出るのもいいかなと思った。

PS
この後母親は、番組を見て大喜びしていた。
(これには深い訳があります。その理由は・・・<緒川集人物語>をご覧ください。)

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